箱庭

 


 じ、と。
 彼女はみているのだ。
 透明な硝子ガラスを隔てた向こう側を。
 ただ、緑と青が伸びる向こうを。

 射す日が、彼女の髪を透く。
 少し眩しそうに、それでもその光に憩うように。
 彼女はその眼差しを細める。

 憧れているのか。懐かしんでいるのか。
 彼女はみつめ続ける。
 硝子には触れもせず、時折、視線を移して。

 彼女は知っているのかもしれない。
 小鳥一羽も訪れず、草木が風に揺らぐことすらない。雲は往かず、傾きもしない日のある、硝子のこちら側を。
 そして、彼女をみる動かない僕を。

 そ、と。
 彼女は手をのばした。
 透明な硝子を隔てたこちら側に。
 瞳は僕をみて、僕は瞳をみて。
 差し出された手は、いつまでものびている。
 彼女が微笑んだ、その瞬間から。
 薄い硝子を隔てた、わずかなその先で。

 僕はみている。
 風が吹き、日が落ちるこちら側で。
 微笑んだ彼女の、動かないその姿を。